*【日本思想大系本解説】
《こうした五巻の分類と順序立ては、整然と組み立てられているが、内容は意外に雑然としたところがあり、また同じことが所々で繰返されている。前後に何の連絡もないことが羅列されているところがある。また片一方では恐ろしく元気なことをいっておきながら、他方ではとても弱気なところがある。大分の兵法・小分の兵法といっておきながら、大分の兵法の記述が軍法としては問題にならないほど幼稚である(吉田清顕『二刀流を語る』昭和十六年)とされる。また全体に文章の表現が曖昧で、不明瞭な点が多い》(渡辺一郎「兵法伝書形成についての一試論」)
兵法口伝 当該箇処
*【兵法口伝】
《敵に向へ(ひ)其急速なる事、風の如し。此うちに陰の心持あり、辨財天の御徳智なり。敵を請て其安穏たること、山の如し。此内に陽の心持あり、大黒天の御徳仁なり。敵にあひて其侵掠すること、火の如し。此内に陽(陰)の心持あり、摩利支天の御徳勇也。敵を取てその静厚ある事、林のごとし。此うちニ陽の心持あり。皆これ猛寛兼用の位也》(二刀流口訣条々覚書)
*【五輪書相伝証文】
《天下無雙の兵法、予不肖たりといへども、立花増寿より是を傳へて、已に七代の跡を継。幸無病にして兵法に心を尽す事、今に至て五十年、星霜を積て思ひ見れば、先師、空をいひ直通をいひて、ヘを立られし事、誠に神通の妙といふべし。戰勝負の事に於て、打バ則くだけ、攻れバ則敗る。我に形つくりする事なく、只一にして、心體巖のごとくに成て、敵を思ふまゝに押廻し自由に勝所、是則空、空則直通也。貴殿深此道に志、数年執行有之によつて、予が受得たる處、五巻の兵書、三ヶの大事共に、全く相傳せしめ畢ぬ。猶積年に鍛錬工夫をなし、先師の意を継て、門弟其機にあたる者を撰ミ、是を傳へ、後代に不絶事を勤め行ふべき物也》(七代丹羽五兵衛信英、寛政三年)
《二天二刀一流兵法の道に、貴殿深志多年依御執行、丹羽信英より予受得たる至極之兵書五巻、三ヶの大事共に、令傳授畢。空は偏天地四方を蹈破して見よ。無所の不知事なし。以此意敵を貫く時ハ、千度不戦して千度勝事、慥にあり。是則空、空直通也。世の中にあらゆる事の千変万化、皆如斯。毛頭不可疑者也》(八代渡部六右衛門信行、文政元年)
*【日本思想大系本解説】
《一の弟子である孫之丞はいわゆる剣術遣い(おそらく主君の忠利と同じ柳生新陰流であろう)で、知行二百石、武蔵の死没当時三十五歳、二の弟子求馬助は小姓の出身で…》(渡辺一郎、同上)
吉田家本 空之巻奥書
(年号月日)正保二年五月十二日
(宛 名) 寺尾孫丞殿
*【丹治峯均筆記】
《兵書五巻ヲ記サル。地水火風空ト号ス。清書ナキ内ニ病生ズ》
《五巻ノ書、草案ノマヽニテ信正ニ授ケラレシユヘ軸表紙ナシ。依之、後年相傳ノ書、其遺風ヲ以軸表紙ヲツケズ》
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